ジョン・メリウェザー

 


ジョン・メリウェザーの名前を見たのはライブドア・ショック(マネックス・ショック)のとき以来、だいたい1年ぶりくらいだろうか。ジョン・メリウェザーとドイツ銀行のグレッグ・リップマンが先日の「世界同時株安」での“勝者”だったと欧米紙が書いている。今回の「世界同時株安」では“チャイナ・ショック”という文字が躍っていたけど、こういった“ショック”のときに名前が登場するメリウェザーって‥‥ソロモン・ブラザーズの元副会長。


メリウェザーは、ソロモン・ブラザーズ時代に国債の不正入札が発覚して辞任、そしてLTCMは破綻、つまり2度も大問題を起こした要注意人物。99年に立ち上げたJWMパートナーズの経営者として「3度目の正直」なのか「2度あることは3度ある」になるのか‥‥頭の中でいつもゼニ勘定ばかりしているようなメリウェザーが正直であるはずもなく、そのうちまた大問題を引き起こすかもしれないし、じつはとんでもない悪さを重ねているのにただ発覚していないだけかもしれない。メリウェザーとその周囲にいるヤツらは、質的にも規模としても、ニック・リーソンの何倍も“危険な集団”なんじゃないだろうかと、再考察してみるいい機会。

破綻の米ファンド創設者 世界同時株安で“勝者”に

【ワシントン=渡辺浩生】先月27日の世界同時株安によって大勢の投資家が損失を被った中で、一握りの幸運な勝者も生まれた。1998年に破綻(はたん)した米ヘッジファンドロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の創設者がそのひとりだった。1日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルが報じたもので、勝敗が瞬時に入れ替わる市場のダイナミズムを象徴している。

株安で利益を得たのは、運用資産26億ドルの「JWMパートナーズ」を経営する投資家ジョン・メリウェザー氏(59)。円と米国債を大量に買って売り抜ける「強気の賭け」が的中したという。

外国為替市場では、低金利通貨の円を売って新興国の高金利の資産で運用する「円キャリー取引」で円安が続いていたが、メリウェザー氏は、27日の世界的な株価急落の余波で、キャリー取引が逆転し円高になると読んだ。実際に円相場は1ドル=117円台まで円高ドル安に一気に振れた。

また、市場の混乱で相対的にリスクが低い資産に流れる「質への逃避」が起き、米国債も上昇。メリウェザー氏のファンドは2月を好収益で終え、「勝ち組」に。半面、株式取引に集中したファンドは窮地に陥り、「負け組」となった。

LTCMは98年、ロシア債券の暴落で巨額損失を被り、世界的な金融市場の混乱の引き金となったことで知られる。

(2007/03/02 18:35)

http://www.sankei.co.jp/kokusai/usa/070302/usa070302007.htm

Some Big Winners On Wall St.(March 1, 2007)

Another winner was Greg Lippmann of Deutsche Bank, who has made about $250 million for his bank in recent months by "betting against an index of subprime-mortgage loans, which plunged more than 7% Tuesday before rebounding a bit" on Wednesday.
http://www.cbsnews.com/stories/2007/03/01/the_skinny/main2526687.shtml

As Market Fell, Some Big Names Won Their Bets
Global market chaos, but at least one man made a killing
Money for Meriwether - the winners in the markets’ rout



「ヒロさん日記」

古きよきソロモンの知恵に預かる「売りキチ」兄弟たち


「竹中平蔵逮捕」くらいの衝撃がなければ、日本は目覚めない。
「ライブドアショックの真実 株価大暴落をウラで操る真犯人は誰だ!」

日経平均 株価下落はホリエモンのせいじゃない(東スポ)
証券関係者が口揃え解説

ライブドアショックを受けて17、18日の日経平均株価は1000円以上値下がりする場面もあった。個人投資家からは「あの野郎!」と堀江社長を恨む声が聞かれるが、実は株価の激下がりは、堀江社長の逮捕にかこつけたヤラセの可能性が高いことが本紙の調べで明らかになった。

ライブドアの家宅捜索の影響で日経平均株価は17日に485円安。18日は735円安まで売り込まれる場面があった。この原因はライブドア強制捜査によって、個人投資家の狼狽売りが多発したためといわれている。しかし、証券関係者からは、原因はホリエモンではないという重大な証言が飛び出している。

ライブドア強制捜査が終わった17日午前、日経平均株価は200円安した後持ち直して、一時前日より70円近く上がっていたんです。しかし午後になって再度急落した。ヒューザーの小嶋社長の証人喚問で安倍官房長官の名前が出てきたからといわれていますが、ホントはこの時を待っていた人物によるカラ売りが原因と噂されているんです」

その売りを仕掛けたのが、外資系証券会社のゴールドマン・サックス(GS)と、ネット専業のマネックス証券、さらにヘッジファンド界の超大物ジョン・メリーウェザー氏のグループだと関係者は口を揃える。

マネックス証券の松本社長はかつてソロモンブラザーズ証券に勤務していたことがあり、ソロモンブラザーズの副会長だったジョン氏とは今も深い仲だ。また、松本社長はGSにいたこともあり、現在も密接な関係にある。GSは政府関係の情報収集能力がダントツといわれており、事前にライブドアへの強制調査をキャッチし、松本氏やジョン氏とともに売りを仕掛けたというストーリーなのだ。

日経平均が突如暴落したのはマネックス証券ライブドア株を担保にして、株を購入している投資家に対し、『ライブドア株の担保能力をゼロにする』と発表したのがきっかけ。この瞬間に、ヘッジファンド外資系証券が、猛烈に売ったことが確認されており、日経平均はその時点から1000円以上も下げた。このグループが儲けた額は100億円以上にもなるといわれています」(同)

GSが情報をつかみ、マネックスが下げのきっかけを作り、ジョン氏の巨額な資金を使って売りを仕掛ける。アメリカ在住のジョン氏がなぜ17日に特別に来日していたのかも、噂に拍車をかけている。

ライブドア株はすでに家宅捜索前の半値になり、いまだに売りたくても売れない状態。ネット掲示板には「今から死にます」などといった、絶望の声が数多く書き込まれている。



 『グリーンスパンボブ・ウッドワード(著)



コネチカット州グリーンウィッチに本社を置くロング・ターム・キャピタル・マネジメントは、きわめて富裕な投資家が出資する強力なパートナーシップで、秘密のベールに包まれてきたが、ロシアの通貨危機をきっかけに激震に見舞われた。大手投資銀行ソロモン・ブラザーズの元副会長、ジョン・メリウェザーとFRBの元副議長、デイビッド・マリンズが1994年に設立し、ノーベル賞の受賞者がふたり、博士号の保有者が何人もくわわっている。いわゆるヘッジ・ファンドだ。ヘッジ・ファンドは、相場の上昇が予想される場合でも、下落が予想される場合でも積極的に動く。それぞれの時点で上昇が予想されるものを大量に買うと同時に、下落が予想されるものに空売りをしかけて、両方から利益を得ようとする。また負債比率がきわめて高い。LTCMは運用する資金の95パーセント以上を借入で賄っている。
(中略)
1994年と95年、LTCMは年に40パーセントを超える利益を稼ぎ出している。これは、パートナーや投資家から集めた数十億ドルの資金に対するものだ。さらに1千億ドルをゴールドマン・サックスなどの大手金融機関から借り入れている。おなじ手法を使うヘッジ・ファンドが増えて競争が激化したのに伴い、LTCMは債券だけでなく、株式投資や為替取引に手を広げていった。

だが、ロシアの債務不履行で総崩れがはじまった。債券価格はLTCMが想定する適正水準に戻るどころか、懸け離れる一方になった。9月初め、LTCMは純資産の半分近い18億ドルの損失を出したと投資家に知らせた。驚くべき損失額だ。世界の債券市場が凍りついたようになっているため、既存のポジションの多くは解消できない。しかし、この情報は一般には伝わらなかった。クリントン大統領とモニカ・ルインスキーの性的関係について、スター独立検察官による452ページの長大な報告書が発表されたことが大きかった。

9月18日金曜日、ニューヨーク連銀のマクドナー総裁は古風で豪華な執務室で、LTCMのメリウェザーとマリンズからの電話を受けた。野心に満ちたLTCMが窮地に陥っていることはすでに承知していた。

ふたりが伝えた内容は単純だった。巨額の損失を被っており、債務不履行を避けるため、融資してくれる銀行や投資会社を探しているが難航しているという。狼狽した様子はない。

総裁が知るかぎり、メリウェザーは狼狽した姿などおそらく見せない冷静な相場師であり、マリンズは真の意味で市場のプロだ。このふたりが、みずから報告してきたのだ。純資産が底をつきかけている。重大な問題なのでFRB財務省の幹部にコネチカットの本社に出向いてほしいという。「帳簿をよく調べて、実態を把握してもらいたい」

この要請はただごとではない、にっちもさっちも行かなくなっているに違いない。問題がよほど大きくなければ、世界でも指折りの秘密主義の金融集団が部外者を引き入れるはずがない。マクドナー総裁は自分が戦場の司令官のような立場にあると考えている。だから、FRBの幹部を派遣するかどうか自分の判断にかかっている。とはいえ金融政策にもかかわる問題なので、少なくともグリーンスパン議長の耳に入れ、承認を得なければならない。

自分が議長よりも積極介入派であることも自覚している。議長は市場への介入を嫌い、自由市場での解決を望む。だが、コリガンの伝統を受け継いだニューヨーク連銀総裁としては、積極派であるべきなのだ。ここはその役割をしっかり果たした方がいい。ある面で、自分はFRB議長に派遣されたニューヨーク代表だ。そのための代表なのだから、前に出なければならないときもある。

マクドナー総裁はグリーンスパン議長に電話をかけて状況を説明し、LTCMに何人か派遣したいと言った。状況が詳しくわかれば対処のしようがあるが、人を派遣しないかぎりわからない。だれにも全体像が見えていない。われわれがやるしかない。

グリーンスパンは承諾した。

これを受け総裁は、10社あまりの銀行や証券会社の経営者に電話し、「何が起こっているのか。どう言われているのか」と尋ねた。だれもがLTCMの損失と、それが世界市場に与える影響を懸念していると話してくれた。そして、遠まわしに自社への影響を口にした。

つぎに総裁はルービン財務長官に電話をかけた。長官は、FRB財務省のチームがLTCMの帳簿を調べていることが漏れた場合のリスクについて指摘したが、リスクを冒すだけの価値はあることに同意した。知らなかったで済まされるような問題ではないからだ。同時に、LTCM自体は小さな問題だろうが、市場の規律の乱れを示すものだと語った。それ自体が大問題を引き起こすことはないとルービン長官はみていた。

マクドナー総裁はロンドンで講演を行う予定になっている。講演をキャンセルすれば、そしてこのキャンセルと、LTCMにFRB財務省のチームが派遣されている事実が結びつけられれば、正真正銘のパニックを引き起こしかねない。総裁はロンドンに向かった。

9月20日日曜日、ニューヨーク連銀のピーター・フィッシャー副総裁がコネチカットに派遣された。午前10時、長くてくせ毛、ハーバード・ロー・スクール出身のフィッシャーがLTCMに到着した。なんの変哲もないレンガづくりのビルにあり、歯科の診療所といってもよさそうだ。

フォッシャーは6時間あまり帳簿を調べた。大きな驚きがいくつもあった。第一に、株式オプションで巨額のポジションをとっている。ある推計によれば、LTCMの売買額が全体の3割を占める投機的市場があり、同社は株式の価格変動性が低下すると予想してオプションを売っている。第二に、あらゆる融資にクロス・デフォルト条項がついている。つまり、ひとつの貸し手に対し債務不履行を起こせば、自動的にすべての貸し手に債務不履行を起こすことになる。ひとつの債務不履行が起これば、すべての資産、すべての投資を貸し手が背負い込むことになる。

債務不履行がひとつ起これば、LTCMのファックスが休むことなく取引清算の注文を貸し手に送りつづけることになるだろう。ゴールドマン・サックスメリルリンチをはじめ、16社もの大手銀行や証券会社がLTCMに融資している。同社が破綻すれば、その衝撃がアメリカや世界の金融システムを直撃する。見切りのポジション解消が、唐突で無秩序な取引清算が連鎖反応を呼び、さらなる売りにつながる。投資家の信認は急落する。債券市場からの資金逃避が起こり、社債米国債の利回り格差はますます拡大する。こうした悪循環でアメリカ企業の信用コストが上昇し、アメリカ経済に多大な影響を及ぼす。ただでさえ市場が円滑に機能していないときに、こうした事態が起こるのだ。

百年に1度の崩落として歴史書に記録されるかもしれないとフィッシャーは思った。マクドナー総裁に電話をかけた。

アメリカの債券市場を1週間あるいは1カ月、壊滅状態に陥れる可能性が10パーセントある。その後どうなるかは、まったくわからないと伝えた。

9月21日月曜日、アジアで大規模な売りが起こった。早朝のニュースによれば、ルインスキー問題に関するクリントン大統領の大陪審証言がテレビで放映されたからだという。フィッシャーは思わず笑った。賢明な投資家がLTCMの破綻を予想し、投げ売りしているのだろう。

この日、グリーンスパン議長はFOMCの電話会議を開き、自身の議会証言の内容について同意を求めた。議長やFOMCの手を縛らないようにしながら、利下げが近いとはっきり示唆したいと考えている。異論はなかった。

マクドナー総裁は火曜の深夜、ロンドンから戻った。調査結果は恐ろしいものだった。LTCMの取引を唐突に、無秩序に清算する事態になれば、アメリカ経済は深刻な危機に陥りかねないと考えていた。水曜朝の時点で、LTCMはどこかに買収されるか、数十億ドルの資本注入を受けなければ立ちいかないのが明白になった。この日のうちに決まらなければ、LTCMは翌日に破綻する。

マクドナー総裁とフィッシャーは、ゴールドマン・サックスなどの大手投資銀行がある面で、LTCMと変わらぬほど負債比率が高い取引を行っていることを知っている。取り付け騒ぎになれば影響は測りしれない

フィッシャーは、水曜の午前10時、16の銀行と証券会社の代表をニューヨーク連銀に集める手はずを整えていた。ほとんどがCEOだ。そこに、ゴールドマン・サックスのジョン・コーザイン会長から、投資会社、バクシャー・ハザウェイの会長で世界第二位の資産家、ウォレン・バフェットが投資グループを結成し、LTCMを買収する可能性があるとの連絡が入った。

本人に確認をとりたいとマクドナー総裁は答えた。バフェットなら人柄をよく知っている。ほんとうに40億ドル投資するつもりなら、よくよく考えたうえでのことだ。

バフェットは、マイクロソフトの会長で世界一の資産家、ビル・ゲイツとともにモンタナ州にいた。4組の夫妻とイェローストーン国立公園を周るバス旅行の最中だった。LTCMの買収には乗り気だ。40億ドル投資すれば、世界の市場を落ち着かせることができ、数十億ドルの利益を手にできると踏んでいた。バフェットほどの資産があれば、大きな獲物がやってくるのを待っていればいい。まさにいまが、その機会だ。

マクドナー総裁は、バフェットの非公開の番号に電話をかけた。この番号には、いつも本人が出るが、話してもいい相手だとわかるまで、バフェットは声色を変える。

感じのいい穏やかな中西部訛りの声が電話口に出た。

「ビル・マクドナーですが、バフェット氏につないでいただけますか」

「やあ、ビル」とバフェットが答えた。買収提案はほんとうで、書類にしてある。破綻するのを放置はできない。しかし、債券相場の変動が極端になっているので、提案の有効期間はせいぜい1時間だ。午前中にLTCMからの回答が欲しい。

安堵した総裁は、16社のCEOや代表が待つ理事会会議室に向かった。

別の提案があった。多くの方々には、どんな案よりも魅力的な解決策だし、これで問題が完全に解決すると思っていただけるだろう。申し訳ないが、1度お帰りになるか、適当に時間を過ごして午後1時に戻ってきていただきたい。

おなじ水曜日の朝、グリーンスパン議長は懐かしい声の電話を受けた。ニューヨーク連銀の前総裁で、1987年の株式暴落の際に陣頭指揮をとったジェラルド・コリガンだ。現在はゴールドマン・サックスのシニア・パートナー兼マネージング・ディレクターであり、同社のリスク管理委員会の共同委員長をつとめている。

アラン、ちょっと耳に入れておきたいことがある、と親しみのある低い声で話しはじめた。反応やコメントは期待していないし、ほしくない。

グリーンスパンは耳を傾けた。

市場の流動性がまったくなくなっている。もちろん、ご存知だろうが。数億ドルの支払い期限が、この夜に迫っている。それが滞れば……。ニューヨーク連銀でさまざまな会議が開かれていることは、もちろん議長も知っていた。非常に危険だ。1987年の株価暴落ほどでないにせよ、それに近い。

コリガン博士、ありがとう。議長はそう言って電話を切った。

午後0時30分ごろ、LTCMがバフェットの買収提案を断ってきた。出資者との取り決めで、バフェットへの売却を決める権限がないのだという。

モンタナではバフェットが、国立公園めぐりは数十億ドルについたとビル・ゲイツに冗談を言った。ニューヨークにいれば、買収をまとめられたはずだと確信していた。

マクドナー総裁は、メリウェザーとマリンズにとって、この話が流れたのは好都合だったのだと気づいた。バフェットに買収されれば、自分たちはすぐに追い出される。だが、これでいずれ会社を辞めるにしても、カネをもらえる機会が生まれた。

この時点で、LTCMに融資している16の金融機関が救済策をまとめるしか道はなくなった。これら金融機関のトップが、会議室で待機していた。
(中略)

さまざまな点で、つぎの段階に何をすべきかは明白だと総裁は考えた。FRBは本来なら介入すべきではないが、何もしない場合のリスクが大きすぎるので、自分が一肌脱ぐのは許されるはずだ。主要金融機関を招集したのは、ある意味で、燃え盛る火事の現場に急行するために、消防車で一方通行の道を逆走するようなものだ。被害がきわめて大きくなりうる場合、通常の規則は適用されない。いまこそFRBが乗り出すべきであり、混乱を収拾するのが自分の役割だ。

こうした会議に乗り込み、こうすべきだと言わなければならないときがあるとマクドナー総裁は考えていた。大上段から解決策を押しつける。だが、今回は違う。こちらは秘密を握っている。向こうにも自分たちの危険を理解するだけの材料が揃っている。市場の混乱が収拾できなくなれば、何社かは経営が破綻しかねない。ヘッジ・ファンドと変わらぬほど巨額の借り入れで投機的な取引を行っている金融機関があり、危険な状態にある。自分は目立たない方がいい。ここに集まった金融機関にとっては、どうすべきかは考えるまでもない。別の道を選べば悲惨な結果になるのだから。なんとかしてLTCMを救済する方法を考えるしかない。

金融機関側が恐れていることにも総裁は気づいていた。だれも舵をとっていないからだ。通常なら、市場が王であり、舵をとっている。その市場が機能していないのだ。

テーブルを囲んでいるのは、いまの「宇宙の支配者」であり、野心的で、秘密主義で、競争好きな面々だ。不信と猜疑心が渦巻いている。怒りをあらわにしている者もいる。それぞれが発言すると、問題の深刻さについて、それぞれまったく異なる見解を述べた。みな自社を代表して話すことはできるが、カネを注ぎ込むのであれば取締役会の承認を得なければならない。

マクドナー総裁は、サンドイッチとコーヒーを勧めた。そして、バフェットの買収提案が拒否されたと報告した。公共の利益を考えるなら、LTCMのポジションは市場に投げ売りしない方がはるかにいい、LTCMは破綻させない方がいい。今日中にみなさんが手を打たなければ、明日には破綻するとわれわれはみている。そう総裁は語った。

メリルリンチでCEOにつぐ地位にあるハーバート・アリソン社長が立ち上がった。小柄で、頭が禿げ上がった同社長は、背筋をピンと伸ばしてメモを読み上げた。会議室に集まった金融機関の損失は合計で200億ドルになりうる。LTCMが生き延びるのに必要な40億ドルの数倍だ。200億ドルもの損失は破滅的だ。だが、これすら始まりにすぎない。LTCMが必要とする40億ドルを調達しなければ、明日には破綻する。破綻すれば、取引に応じる者のいない巨額のポジションが宙に浮く。それで終わりだ。途方もない額の狼狽売りがはじまり、相場は暴落、だれもが逃げようとする。システム全体が危機に瀕している。「われわれは国民に対する義務を負っているのではないか。責任は自社や顧客に対するものだけではない。この点ではみなおなじだ」

アリソン社長は救済策の原案を示した。16社が2億5千万ドルずつ拠出する。リーマン・ブラザーズの代表が、それはむずかしく1億ドルしか出せないと発言した。さらに2社が減額を申し出た。とくに規模の大きい機関が拠出額を3億ドルに引き上げることになった。緊迫したやり取りは5時間に及び、午後6時ごろようやく合意に達した。全体で36億ドルを拠出することが決まった。LTCMを買収し、市場が落ち着けば、投入した資金は取り戻せるし、わずかながら利益も得られるだろう。

全員が歓声をあげた。

シティコープでは、ジョン・リード会長が詳細な報告を受けていた。シティ自体がLTCMに融資しているわけではないが、同社の優良顧客であるゴールドマン・サックスメリルリンチソロモン・スミス・バーニーが身動きとれなくなっている。笑いごとではない。これらの機関には多額を融資している。ニューヨーク連銀に集まった機関への融資残高は合計数百億ドルにものぼる。どこかひとつがおかしくなれば、うちもおかしくなる。直接に関与はしていなくても、わずか一歩の距離しか離れていない。リードは融資部長にそう話した。

LTCMに関する合意ができ、市場はいくぶん落ち着きをみせたが、翌週末にかけ5回にわたって合意がこわれそうになった。ある銀行が資金を引き揚げようとしたためだが、最終的には救済にくわわることに同意し、9月28日月曜日に契約が締結された。

マクドナー総裁は、誠実な仲介者として触媒の役割を果たしただけだとグリーンスパン議長に説明した。公的資金の注入が検討されたことはない。圧力をかける必要はなかったが、関係者を一同に集められたのはFRBだからこそだと総裁は自負していた。

グリーンスパン議長としては面白くない。マクドナー総裁は、ニューヨーク連銀の名前を貸したのだ。会議は、ニューヨークのどこかの企業の役員室を使えばよかった。FRBがお膳立てをする必要はなかった。総裁は判断を誤り、少しばかり焦ったのだろう。LTCMの破綻が世界の金融システムを揺るがす可能性は50パーセントを大きく下回る。とはいえ懸念するのは当然だ。ある時点まで、議長の心は揺れていた。しかし、事は終わった。いまは、連邦準備制度理事会の団結を維持するのが自分の役割だ。そのためには、マクドナー総裁を支持するのが最善の方法だと議長は考えた。


 以上、グリーンスパンP.340〜353より。

『へッジファンド』P.134

LTCMの破綻は、「アメリカ経済のみならず、世界の株式市場へ及ぼす連鎖反応が余りに大きい」との理由で、ニューヨーク連邦準備銀行が主要証券会社や銀行を説得し、大規模な救済策を講じることになった。とはいえ、なぜ投機家の失敗の尻拭いに政府が音頭を取る必要があるのか、と物議を醸しているのも確かである。アメリカは日本や韓国に対しては「経営不振の銀行はどんどん破綻させろ」と言っておきながら、これでは身内に甘過ぎると言われても仕方がないだろう。日本の「護送船団」方式をわらえない話である。


 アメリカの巨大ヘッジファンドLTCM破綻と救済メカニズム

絶対に損失は出ないはずだった。ところが98年8〜9月にかけて、ヘッジファンドLTCMがロシアの金融崩壊の影響を受けて40億ドルの損害で破綻し、一時ウォール街が大暴落した。しかしウォール街ホワイトハウスをあげて、LTCMは直ちに救済された。

LTCM経営者ジョン・メリウェザーは、91年にアメリカ国債を一手に引き受けていたソロモン・ブラザーズの副会長で、ソロモン時代にはジェームズ・ウォルフェンソーン(のちの世界銀行総裁)のパートナーであった。

ウォルフェンソーンは、ロスチャイルド財閥のS・G・ウォーバーグの創業者ジークムント・ウォーバーグが自ら育てた人物で、シュローダー銀行幹部、ソロモン・ブラザーズスミス・バーニー会長を歴任したあと、ウォール街の買収ブローカー「ウォルフェンソーン・インコーポレイテッド」を経営し、93年にソロスをパートナーとして1兆円以上の企業買収を成功させ、95年から世界銀行総裁に就任した。同僚のスミス・バーニー副会長だったのが、J・P・モルガン財閥の当主ジョン・アダムズ・モルガンであり、その一族であるJ・P・モルガン会長プレストンの後任総裁として、ウォルフェンソーンが選ばれたのである。

ところがメリウェザーは、ソロモンでの国債の不正入札が発覚して辞任に追い込まれ、LTCMを設立した。その経営に参加したのが、かつて株価暴落に関する大統領調査特別委員会の事務局次長だったデヴィッド・マリンズであった。これは不思議な関係であった。

マリンズは連邦準備制度理事会副議長だった人物で、当時FRB議長ポール・ヴォルカーの部下だったから、後年の両者のLTCM経営参加の関係から、マリンズから国策情報がメリウェザーに筒抜けとなって、2人が組んで不正入札がおこなわれたと考えるのが自然である。ソロモンが扱っていたアメリカ国債を、日本の金融機関は大量に買わされたが、アメリカは日本から金を集めるため、95年まで一時は1ドル80円台という円高に誘導した。この政策をディーリング・ルームで実現したのが、FRBと、ソロスたちヘッジファンド・プレーヤーの連携プレーであった。メリウェザーとソロスは、アメリカの国家利益を代行していた。

その人物が設立したヘッジファンドLTCMに、ロバート・マートンが経営参加した。マートンは、ノーベル経済学賞受賞者ポール・サミュエルソン理論の研究者で、彼自身もノーベル経済学賞を受賞したが、日興證券とソロモンを買収したトラベラーズの投資部門重役でもあった。マートンのドイツ語読みはメルトンだが、ロスチャイルド財閥のドイツ最大の金属カルテル「メタルゲゼルシャフト」の創業ファミリーのメルトン家であり、同家はソロスが頻繁に利用した投資銀行シュローダー・ワッグの中興の祖であった。

またサミュエルソンの甥が、日本に圧力をかけ続け、世界銀行幹部から99年7月にクリントン政権の財務長官にのぼりつめたローレンス・サマーズであった。

要約すると、為替レートを差配するソロスと、そのレートに従って利益が変動する国債を販売したマリンズと、国債を引き受けたメリウェザーと、その国益を受けるサマーズとヴォルカーと、LTCMを運営したマートンが、みなウォール街の同胞で、ここまでに登場した民間バンカーはすべてロスチャイルド財閥のファミリー企業であった。

LTCMでは、投資家から集めた22億ドルの元手を担保に、最後に600倍の1兆2500億ドル(150兆円)まで投機運用額がふくらんだという。日本の国家予算の2年分に相当する額が破綻したのである。LTCMの救済に、ヴォルカーの後任者アラン・グリーンスパンの号令でアメリカの金融界が総力を結集したのは当然であった。

絶対に失敗しないはずの資産運用法をヘッジファンドと呼び、その理論をマートンたちが構築してみせたが、LTCMが破綻する前に、ソロスがこの手法の限界を見抜いて、全世界に破綻の警告を発していたという事実がある。この警告、そしてその後たびたびソロスが口にした「資本主義の限界」という言葉こそ、彼らが金儲けを非難されないためのヘッジであった。実際には、ソロスの言葉は嘘だらけである。ソロス不動産ファンドのエヴァン・マークス社長は、「日本の不動産市場は回復に向かう可能性が高い」と94年に発言したが、それ以後99年まで、日本の地価は一直線に下降してきた。相場の予見者として、まるで事実と合致していない。被害を受けたのは、ウォール街が挙げてLTCM救済資金をひねり出した場所、すなわち国際金融マフィアが集金に行った先の日本とアジア各国と中南米のマーケットであった。

LTCM事件は、全世界の市場を次々に食いつぶした彼ら自身が投資先を失って、破局に至ったという点が重要である。

J・P・モルガン会長ルイス・プレストンと、ソロスのパートナーだったジェームズ・ウォルフェンソーンが総裁をつとめてきた世銀は、公的な機関ではない。

アメリ中央銀行の総裁ヴォルカーが、退職してすぐにウォール街でソロスの投機屋仲間となり、99年には前述の長銀救済グループ「リップルウッド」の顧問として再登場した。しかもLTCM創業者メリウェザーが、不正入札でソロモン副会長を辞任したあと、ソロモン会長に就任した人物が、“フォーブス”で、ビル・ゲイツにその座を譲る93年まで全米大富豪400人のトップにランクされたウォーレン・バフェットであった。バフェットが経営するバークシャー・ハサウェイの傘下にある保険会社サイプレス・インシュランスに、ヴォルカーが経営参加したのである。公私も何もない。

公的機関はすべて、ウォール街とロンドン・シティーのファンド・マネジャーと、スイスの銀行秘密口座管理人と同じ金融人脈で構成され、同じ人間が流動しているにすぎない。まったく危険なひとつの集団である。敢えてそれを2つの金融力に分類すれば、ヨーロッパのロスチャイルド財閥とアメリカのモルガン財閥が提携した力、と定義することはできる。


 以上、アメリカの経済支配者たち』P.178〜182より。

ジェームズ・D・ウォルフェンソン
世界銀行グループ総裁

(前略)
この投資会社設立以前にも、金融界で数々の重職をこなしてきました。ニューヨークのソロモン・ブラザーズの取締役パートナーや同社の投資銀行部門部長、ロンドンのシュローダーズ社の取締役副会長兼社長、ニューヨークのJ.ヘンリー・シュローダーズ・バンキング・コーポレーション社長、さらにオーストラリアの投資会社ダーリング&カンパニー・オブ・オーストラリア社の専務取締役を務めています。

ウォルフェンソン氏は、その長い職歴を通じて、舞台芸術を中心とする文化活動やボランティア活動にも幅広く活発に携わってきました。1970年には、ニューヨークのカーネギー・ホール理事となり、1980年から1991年までは理事長として同ホールの改修事業を成功に導きました。現在は名誉理事長を務めています。1990年には、首都ワシントンのジョン・F・ケネディ舞台芸術センターの評議委員長に就任。1996年1 月1 日、名誉委員長に選出されました。

さらに、多発性硬化症国際協会会長、持続可能な成長のためのビジネス・カウンシル理事、ロックフェラー財団財務委員長および理事、人口評議会理事、ロックフェラー大学理事も務めました。

現在、同氏は、世界銀行グループの総裁を務めるかたわら、プリンストン高等研究所の理事長の職にあります。さらに、ブルッキングス研究所の名誉理事、外交問題評議会員、ニューヨークの文化団体センチュリー・アソシエーション会員でもあります。

1933年12月にオーストラリアで生まれたウォルフェンソン氏は、後に米市民権を獲得しています。同氏は、シドニー大学で学士号(BA)と法学学士号(LLB)を取得し、ハーバード大学経営管理修士号MBA)を獲得しています。

ハーバード大学進学前には、オーストラリア系法律事務所アレン・アレン&ヘムスリーで弁護士として活動したほか、王立オーストラリアの航空士官でもありました。また1956年の夏季オリンピックでオーストラリアのフェンシング・チームの一員として活躍した一方、アメリカ芸術科学アカデミーとアメリカ哲学学会の研究員でもあります。同氏の行ったボランティア活動に対して数々の賞が贈られています。例えば、文化と芸術に貢献した同氏の活動を称えて、ニューヨークの近代美術館から贈られた初のデイビッド・ロックフェラー賞もその一つです。

1995年5 月には、同氏の芸術への貢献を称えて、イギリスのエリザベス女王からナイトの爵位が授与されました。その他にも、オーストラリア、フランス、ドイツ、モロッコノルウェーの各国政府からも叙勲されています。

ウォルフェンソン夫人(イレーン)は、教育関係の専門家で、ウェルズリー大学から学士号(BA)、コロンビア大学から修士号(MA)と教育修士号(MEd)を取得しています。夫妻の間には、サラ、ナオミ、アダムの3 人の子どもがいます。

http://siteresources.worldbank.org/EXTABOUTUS/Resources/PresidentsBio-J.pdf